横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)2496号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一テツは、被告会社の経理に関する権限を付与されていたが、原告との間において、昭和五二年一一月二六日、被告会社のためにすることを示して信用保証契約を締結し、同年一二月六日同様にして第一回貸金契約、また、同五三年一〇月三一日同様にして第二回貸金契約をそれぞれ締結し、更に、被告肇のためにすることを示して本件連帯保証契約を締結したこと、第一回貸金については、同五三年五月三一日から同五五年九月一一日まで二八回分(同五五年八月分まで)の元金(割賦金)と同日までの利息が、また、第二回貸金については、同五三年一一月三〇日から同五五年九月一一日まで二二回分(同五五年八月分まで)の元金(割賦金)と同日までの利息とが支払われていること(但し、被告らが支払つたことは除く)は当事者間に争いがない。
二原告はテツに被告会社のために本体第一、第二回貸金契約を締結する代理権が存在する旨主張するので、検討する。
前記事実に、加え、<証拠>を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。
被告会社は、東京都杉並区において自動車の板金塗装業を営んでいたが、昭和五一年一一月に神奈川県相模原市に移転し、借家を工場としていたこと、被告肇は、右移転に際して同市に居宅を新築したが、建築費として国民金融公庫等から多額の金員を借り受けたが、これは妻のテツが同被告の代理人として右借入れをし、同被告もこれに同意していたこと、被告肇は被告会社の代表者であるが、板金の仕事を自ら担当し、またテツは被告会社の監査役であつて、同会社の経理事務の一切を担当しながら、理髪店をも経営していたこと、被告会社は、昭和五二年ころ、主としてトヨタ東京オート株式会社と取引をしていたが、同会社からの支払は手形の交付によつて行われていたことなどもあつて、被告会社は、右移転後の同五二年一一月二六日、近くの原告相模原支店(以下「原告支店」という)と信用金庫取引契約を締結したこと、右契約は、テツが被告肇の同意を得たうえ、被告会社の代理人としてこれを締結し、また被告肇の代理人として右連帯保証契約を締結したものであること、更に、テツは、被告肇の同意を得たうえ、原告支店において被告会社の代理人としてトヨタ東京オート株式会社から交付を受けた手形を割引いていたこと、しかし、被告肇は被告会社の代表者として被告会社に関する金銭の授受は厳しく、被告肇が直接トヨタ東京オート株式会社から手形の交付を受け、その都度テツに右割引を依頼していたこと、同五二年一二月ころ、被告会社の経営はおゝむね順調であつたが、被告肇及びテツは、右居宅の新築にあたり、返済計画を立てずに国民金融公庫等から多額の金員を借り受けていたので、テツはその返済の遣り繰りをしていたが、理髪店の従業員を急に退職させたためにその退職金の支払等に窮したこと、ところで、テツは、同五二年九月一四日、原告支店において被告肇の購入した車の代金の支払等のために同被告名義で一五〇万円を借り受けていたので、更に、同被告名義で金員を借り受けることは困難であると考え、同年一二月六日、被告会社の代表者である被告肇の承諾を得ることなく、被告会社の運転、設備資金に当てると称し、被告会社の代理人として第一回貸金契約を締結したこと、その後、同五三年一〇月三一日、テツは右同様にして第二回貸金契約を締結したこと、テツは家計を遣り繰りするなどして、第一回貸金につき、同五三年五月三一日から同五五年九月一一日まで二八回分(同五五年八月分まで)の元金(割賦金)と同日までの利息、また、第二回貸金につき、同五三年一一月三〇日から同五五年九月一一日まで二二回分(同五五年八月分まで)の元金(割賦金)と同日までの利息を支払つたが、被告会社代表者の被告肇はこれを知らなかつたこと。
以上の事実が認められ<る。>
右認定事実によれば、テツは被告会社のために手形の割引をする権限等は付与されていたが、被告会社のために金員を借受けること、すなわち、第一、第二回貸金契約を締結する権限までは付与されていなかつたものであると認められるのが相当であるから、テツは代理権の範囲を越えて被告会社のために右契約を締結したものであるといわざるをえない。
三被告らは原告においてテツに前記代理権があると信ずるにつき重大な過失があつた旨主張するので、判断する。
前記認定事実に加え、<証拠>によれば、テツが、原告支店において、昭和五二年九月一四日、はじめて被告肇名義で一五〇万円を借り受け、次いで、同年一一月二六日被告会社の代理人として信用金庫取引契約を締結したのであるが、これらの場合において、同支店職員はテツに対して被告肇の来店を求めていたこと、更に、同年一二月六日の第一回貸金契約及び同五三年一〇月三一日の第二回貸金契約締結の際にも、テツは同支店窓口で必要書類を作成していたことなどもあつて、同支店職員は、テツに対して被告肇の来店を求めたが、テツが同人名義の預金などをしたことから、被告会社代表者である被告肇に対しテツの代理権について何ら確認の措置を講ずることなく、漫然と右各契約を締結したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、原告支店職員においてテツに第一、第二回貸金契約締結の代理権があると信じたことには重大な過失があつたものと認めざるをえない。
そうすると、被告会社は原告に対し、第一、第二回貸金契約に基づく債務を負担していないものということができる。
(古館清吾)